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甲府地方裁判所 昭和52年(行ウ)1号 判決

原告 有限会社三和商会

被告 山梨税務署長

代理人 石川善則 佐藤恭一 和田和夫 操木巧 ほか三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

一  <略>

二  1 <略>

2 <略>

3 (一)、(二) <略>

(三) 手形不渡による貸倒れ損失

損金として計上すべき債権の回収不能による貸倒れについては、債務者の資産状況その他の状況からみて、支払能力がなく、債権の回収不能が明らかになつた場合、すなわち、一般には破産、和議、強制執行等の手続を経たが、債権全額の回収ができなかつた場合、あるいは、債務者において事業閉鎖、死亡、行方不明、刑の執行等により、債務超過の状態が相当の期間継続しながら、他からの融資を受ける見込みもなく、事業の再興が望めない場合のほか、これに準じ、債務者の負債及び資産状況、事業の性質、事業上の経営手腕及び信用、債権者による債権回収の努力及びその方法、それに対する債務者の態度を総合考慮したとき、事実上当該債権の回収ができないことが明らかに認められるような場合であつて、法人がこれにつき債権の放棄、債務免除をするなどして、取立の意思をなくし損金経理をしたときの事業年度において損金に算入することが認められると解すべきこと、法人税法二二条三、四項の趣旨に照らし相当である。

そこで、以下、右説示したところに従い前記目録1ないし9記載の債権が本件事業年度において回収不能と認められるか否かにつき検討する。

(目録記載1の関係―金六〇万円)

原告が貸付に当り、貸付先から受取つた別紙目録記載1の約束手形を三森良一及び三森亮名義で訴外信用組合において割引いたが、満期に取引なしとの理由で支払を拒絶され、原告が右手形を買戻したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、振出人は昭和四九年春ころ倒産し、当時約三〇〇〇万円の負債があり、また、本件手形の第一裏書人であり、振出人の代表取締役である訴外水上遜は、めぼしい資産がなく、他にも負債を抱えていたものの本件事業年度においては同訴外人は自己の未回収債権を有し、原告に対する債務についてはなお弁済の意思を有していたこと、原告は、振出人倒産後も振出人及び訴外水上遜に対し、本件債権の支払を何度か催促し、本件事業年度後にも右履行の請求を行つていたこと、さらに原告は、第二裏書人である訴外山本映雄についても、同年度においては、その所在が不明というのではなく、資産や負債の状況も判然とせず、未だ明らかに同訴外人からの債権の回収不能が確実になつたわけではないことが認められる。

そうすると、原告の目録記載1の債権は手形金債権としても貸金債権としても、いずれもこれを本件事業年度における回収不能の貸倒れ損失ということはできない。

(目録記載2及び3の関係―合計金八〇万円)

原告が貸付に当り貸付先から受取つた目録記載2、3の各約束手形を、三森良一名義で訴外信用組合において割引いたが満期に取引なしとの理由でいずれも支払を拒絶され、原告が右各手形を買戻したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、右手形振出人である訴外山主請孝は、根抵当権が設定されているものの不動産を所有し、必ずしも担保余力が全くないわけではないこと、同訴外人は訴外有限会社旭コンクリートを経営しており、必ずしも資力が存しないとはいえないことが認められる。原告代表者尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲記の各証拠に照らし措信できない。

そうすると、原告の目録記載2及び3の債権は手形金債権としても、貸金債権としても、未だこれにつき回収不能の貸倒れ損失として扱うことはできない。

(目録記載4の関係―金二〇〇万円)

原告が貸付先から受取つた目録記載4の約束手形を三森良一名義で訴外信用組合において割引いたが満期に資金不足の理由で支払を拒絶されたため右手形を買戻したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、原告は、本件事業年度後である昭和五一年六月二五日、振出人訴外石合真行所有の韮崎市韮崎町屋敷二二二八―一の土地に三森良一名義で、債務者を本件手形裏書人である訴外石合国太として根抵当権を設定し、本件手形金の回収の確保を企つていること、さらに訴外石合真行の所有する韮崎市穴山町所在の山林二筆には昭和四九年五月に同訴外人を債務者として三森良一名義で手形貸付取引等のための根抵当権が設定されており、右根抵当権により本件手形債権が担保されていたこと、右石合真行から原告に対し、昭和五〇年二月一四日に一三万七六〇〇円、同年三月一三日に一四万五二〇〇円の各支払がなされ、後者については、原告の松下八郎名義の預金口座に入金されていること、前記二筆の土地については、いずれも本件事業年度後である昭和五一年四月、三森良一名義で所有権移転登記がなされていることが認められる。

以上によれば、本件債権は本件事業年度時には根抵当権により担保されていたうえ、原告においてもこれが取立の意思を有していたことが明らかであるから、手形金債権としても、貸金債権としても回収が不能であるとは認められず、これによる貸倒れ損失があつたとして扱うことはできない。

(目録記載5ないし7の関係―合計金六〇二万五〇〇〇円)

原告が貸付先から受取つた目録記載5ないし7の約束手形を三森わか子名義で訴外信用組合において割引いたが、いずれも各満期に資金不足の理由で支払を拒絶され、右各手形を買戻したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、振出人である訴外有限会社小沢建設は、山梨県北巨摩都武川村に宅地三筆と家屋一棟を所有していること、原告は同訴外会社との手形貸付取引にあたり、昭和四八年六月七日、訴外長坂戻雄所有の山梨県北巨摩郡明野村浅尾新田五六四ほか一二筆の土地及び訴外小沢儀三郎所有の山梨県北巨摩郡武川村宮脇九五八ほか三筆の土地に三森わか子名義で根抵当権の設定を受けており、本件事業年度時には右根抵当権により本件各手形が担保されていたこと、訴外小沢所有の土地については競落により原告は費用と金利の一部につき配当を受け、訴外長坂所有の土地については競落がなされるも原告に配当がなかつたこと、しかし、右競落が行われたのはいずれも本件事業年度後であり、本件事業年度においては競売手続も開始されていなかつた(いずれも本件事業年度後に三森わか子名義の申立により競売手続が開始された)ことが認められる。

以上によれば、本件各債権については、前記競売手続が終了し配当等の額が確定して始めて、配当を受けられなかつた残余債権についての回収不能があつたというべきであるから、本件事業年度においては回収不能として貸倒れ損失扱いすることはできない。

(目録記載8の関係―金二〇〇万円)

原告が貸付先から受取つた目録記載8の約束手形を三森良一名義で訴外信用組合において割引いたが、満期に取引解約後との理由で支払を拒絶されたので右手形を買戻したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、本件約束手形の裏書人である訴外岩下邦彦は訴外開発興業株式会社に代わつて右手形債務の弁済のため別の約束手形を振出し、原告に交付していること、また、訴外岩下の経営する訴外穂足精米株式会社は本件事業年度後である昭和五一年九月に訴外三森良一から甲府市愛宕町の山林を七~八〇〇万円で買受けるだけの資産を有していたこと、原告は本件事業年度において訴外岩下邦彦との取引を継続していたことが認められる。

右認定に反する証人岩下邦彦の証言の一部分及び原告代表者の尋問の結果は前掲記の各証拠に照らし措信できない。

以上によれば、原告の本件債権は手形金債権としても、貸金債権としても、未だ本件事業年度において明らかに回収不能となつたとは認められず、これを貸倒れ損失として扱うことはできない。

(目録記載9の関係―金六五万円)

原告が貸付先から受取つた目録記載9の小切手(先日附)を三森良一名義で訴外信用組合において割引いたが、同小切手は取引停止処分済の理由で支払を拒絶されたため、原告は右小切手を買戻したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、原告は昭和五〇年二月本件小切手の裏書人である訴外矢崎公男の父訴外矢崎米蔵所有地に債務者を訴外公男として小切手債権等の担保のため極度額四〇〇万円で根抵当権の設定を受けており、本件事業年度においては、右根抵当権により本件小切手債権が担保されていたこと、原告は本件事業年度後である昭和五〇年七月、訴外米蔵より、代物弁済として右土地の所有権を取得し債権回収の確保を図つていることが認められる。原告代表者の尋問の結果中この認定に反する部分は措信できない。

以上によれば、本件債権は、小切手金債権としても、貸金債権としても、本件事業年度においては明らかに回収不能となつたとは認め難く、これをもつて貸倒れ損失扱いすることはできない。

三  結論

以上のとおりとすると、原告の本件事業年度の所得金額は別表(二)のとおり金九九七万八二九九円となるので、その範囲でなされた本件更正は適法というべきであるから、原告の本訴請求を棄却することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三井喜彦 土居葉子 高野裕)

別表 <略>

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